第9話 先生!

  世の中「先生」と呼ばれる人達は意外と大勢いる。
学校の「先生」はもとより、代議士、法律家、会計士、
等々色々な「先生」がいる。芸術家もよく「先生」と呼ばれる事がある。

  生まれて初めて個展を百貨店で開いた時、「先生!」と呼ばれた。
始めは誰の事を指して「先生」と呼んでいるのか分からずにいたのだが、
自分の事をそう呼んでいる事に気付いて正直、驚きと照れくささの
入り混じった不思議な気分になった記憶がある。
「先生なんて呼ばずに、名前で呼んでください!」と申し出たところ、
「画廊では作家の方は先生とお呼びする事になってますから・・」と
言われた。

  芸能界では昼だろうが夜中だろうが、あいさつは
「おはようございます」になっているのと同じで、
人間国宝級の作家だろうが、初めて個展を開く若僧作家だろうが、
とりあえず画廊の中では「先生」とよばれるのである。

  それと最近よく色々な美術関係の会社や団体から手紙を頂く事が
あるが、宛名には「熊本栄司 先生」と書いてある。
妻はそれを見て「熊本先生ね〜?!」と半分笑いながら、
「いつから先生になったんだろうね〜?!」・・・てな調子である。 

  確かにいつから「先生」になってしまったんだろう?
お恥ずかしい話ではあるが、最近では「先生」と呼ばれる事にすっかり
慣れてしまい、画廊で「先生!」と呼ばれれば「ハイ!」と
答えてしまっている自分がいる。

  「先生とは呼ばないで下さい」と言っても無駄である。
それはあくまで呼び名であって、本当の意味での「先生」ではないから
である。だから「名前でよんでください」と言ってもかえって
店員さんに迷惑なだけだ。

  私は教えるのが大の苦手であるから、一生、真の意味での先生には
なれない。教わる方がいい。新しい事をどんどん覚えていく事は
本当に面白い。教えるのは自分の容量の中からの切り売り的な事だけれども、
教わるのは無限大だ。「先生」とよばれる事に慣れて、自分自身の勘違いに
ならないように心がけて行きたいものだ。

  人間死ぬまで勉強だ。私はずっと「先生」ではなく
「生徒」としての心構えで臨みたい。
                             
2000年3月25日
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